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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)892号 判決 1997年5月30日

原告

A

右訴訟代理人弁護士

松本晶行

被告

Bロータリー・クラブ

右代表者会長

C

右訴訟代理人弁護士

山林勝

主文

一  会員身分終結決定無効確認の訴え及び会員身分確認の訴えをいずれも却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の請求

一  請求の趣旨

1  原告と被告との間において、被告による原告の会員身分を終結させる決定が無効であることを確認する。

2  原告と被告との間において、原告が被告の会員であることを確認する。

3  被告は、被告の会員全員に対し、別紙目録記載の謝罪文を郵送せよ。

4  被告は、原告に対し、五〇〇万円及びこれに対する平成七年二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告の答弁

1  本案前の申立て

(一) 本件訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被告は、国際的な奉仕、親睦を目的とする国際ロータリーの加盟会員であり、大阪府B市を区域限界として組織された団体である。

被告は、標準ロータリー・クラブ定款(以下「定款」という。)を採用し、定款の要件を満たした会員によって構成され、理事会によって管理運営される団体であり、民事訴訟法四六条にいう法人でない社団である。

(二) 原告は、大阪府B市において歯科医院を開業する歯科医師であり、昭和五三年二月、被告の会員となった。

2  会員身分終結決定

(一) 原告は、被告から、平成六年四月二一日付、同年六月一七日付及び同年八月二六日付文書によって、会員身分に関する話をするために被告の理事会に出席するよう求められたが、原告代理人の松本晶行弁護士、北尻得五郎弁護士、桂充弘弁護士及び工藤展久弁護士(以下「松本弁護士ら」という。)は、原告の会員資格条件に変動がないから、原告は被告の理事会に出席するつもりはない旨回答し、被告に対し、意見等があれば文書で申し出るよう求めた。

(二) 被告は、原告に対し、平成六年一一月一七日付文書によって、会員身分を終結する予定である旨を通知し、同年一二月二日付文書によって、被告の理事会が、同月一日、原告の会員身分を終結することを決定した旨を通知した(以下、被告の理事会による原告の会員身分終結決定を「本件理事会決定」という。)。

(三) 原告は、被告に対し、定款一〇条六節dの規定に基づいて提訴を申し出た。被告の会員は、平成六年一二月二二日、特別例会(以下「本件例会」という。)において、右提訴について聴聞及び審議した上、投票によって本件理事会決定を支持する決定をした(以下、被告の特別例会における原告の会員身分終結決定を「本件例会決定」という。)。

(四) しかし、本件理事会決定及び本件例会決定(以下、二つの決定を合わせて「本件決定」という。)は、原告の会員身分を根拠なく一方的に剥奪するものであるから無効である。

3  被告の不法行為責任

(一) 被告は、平成六年一〇月一日、大阪府B市内において、ホストクラブとして、近隣地域の八つのロータリー・クラブの合同集会であるインターシティ・ゼネラル・フォーラム(以下「本件フォーラム」という。)を開催した。本件フォーラムにおいては、被告の会員全員が役務を担当し、その氏名及び担当役務がプログラムに掲載されるはずであったが、被告は、原告に、本件フォーラムの役務を担当させず、プログラムにも原告の氏名を掲載しなかった。

被告は、原告に本件フォーラムの役務を担当させず、プログラムに原告の氏名を掲載しなかったことによって、本件フォーラムに参加したロータリー・クラブに対し、事実上、原告の会員資格の喪失を公表した。その結果、原告は多大の精神的苦痛を被った。

(二) 原告は、本件決定によって、ロータリー・クラブ会員であることから得られる高い社会的地位を喪失し、歯科医院の経営に影響を受けた。さらに、本件決定は、原告の除名を意味し、原告が何らかの反社会的行動に関与したことを想起させるから、本件決定によって、原告の名誉は著しく毀損された。

(三) 右(一)及び(二)による原告の損害は、五〇〇万円の損害賠償とともに名誉を回復する適当な処分として被告の会員全員に対し別紙目録記載の謝罪文を郵送することによって回復されるべきである。

4  結論

よって、原告と、被告との間において、本件決定が無効であること及び原告が被告の会員であることの確認を求めるとともに、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として五〇〇万円及びこれに対する不法行為日後の平成七年二月二八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払並びに原告の名誉を回復する適当な処分として被告の会員全員に対する別紙目録記載の謝罪文の郵送を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2(一)  同2(一)ないし(三)は認める。

(二)  同2(四)の事実のうち、本件決定が原告の会員身分を剥奪するものであることは認めるがその余は争う。

3(一)  同3(一)の事実のうち、被告が、平成六年一〇月一日、大阪府B市内において、ホストクラブとして本件フォーラムを開催したことは認め、その余の事実は否認する。

(二)  同3(二)は否認する。

三  被告の主張

1  本案前の主張

(一) 被告は、憲法上の結社の自由によって保障されている自律的運営権に基づいて、本件決定をした。

そして、被告の会員の地位は、社会奉仕団体である被告のクラブ運営に参加できる地位にすぎず、特典や利益を伴わないから、会員身分を終結させる本件決定は、一般市民法秩序とは無関係である。

したがって、裁判所の司法審査は、本件決定及び原告の会員身分喪失についての紛争には及ばない。

(二) 原告が、本件会員身分確認訴訟において、勝訴判決を得たとしても、被告は、定款改正及び再度の原告の会員身分終結決定又は任意解散及び再結成等の手続を履践すれば、原告を被告から排除できるのであるから、本件訴訟における紛争は原告の右勝訴判決によって終局的に解決されない。

したがって、本件訴訟は法律上の争訟の要件を欠く。

(三) 以上から、本件訴えは、不適法であり、却下されるべきである。

2  本件決定の効力

(一) 裁判所は、本件決定の効力を審理できるとしても、被告の自律的運営権を尊重すべきであるから、会員身分終結手続に関する定款の規定が妥当か否か及び本件決定において右手続規定が遵守されたか否かについてのみ審査できる。

(二)(1) 会員身分終結手続に関する定款の規定は、国法秩序と整合する民主的な規定であり妥当なものである。

(2) 被告は、以下に述べるとおり、定款の規定に基づいて本件決定をしたのであるから、本件決定は有効である。

① 被告は、原告が被告の会員であるために、他のロータリー・クラブから批判を受けたり、被告の会員の増強に影響を受けるようになったので、従来から懸案事項であった原告の会員身分終結の問題を被告の運営及び存続にかかわる問題として認識するようになった。

そこで、被告の理事会は、平成六年四月七日、原告の身分を終結する手続に着手することを決定し、まず、自主的退会を促すため、原告に対し、三度にわたり、文書で被告の理事会に出席するよう求めたが、原告は、これに応じなかった。

② 被告は、原告に対し、平成六年一一月一七日付書面によって、定款一〇条六節b、cの規定に基づいて、会員身分を終結する予定である旨の文書を送付した。

しかし、原告は、被告に対し、書面による答弁を提出することも、特別理事会に出頭して自己の立場を釈明すると申し出ることもなかった。

③ 被告の理事会は、平成六年一二月一日、定款一〇条六節b、cの規定に基づいて、特別理事会において、本件理事会決定をし、原告に対し、同月二日付書面によって、この決定を通知した。

④ 原告は、被告に対し、定款一〇条六節dの規定に基づいて、提訴を申し出たので、被告は、会員全員に対し、平成六年一二月一五日付書面によって、原告の右提訴を聴聞及び審議するため、本件例会を同月二二日に開催することを決定した旨を通知した。

⑤ 本件例会において、聴聞及び審議が行われた後、二一名の出席会員の投票による採決の結果、二〇名の会員が本件理事会決定を支持し、一名の会員が本件理事会決定を支持しなかった。これが本件例会決定である。

3  会員身分終結の理由

(一) 原告は、被告の理事会だけが被告の運営主体であると規定する定款や被告の自治的運営権を無視し、ガバナーに対し、被告の運営のあり方等について直接抗議した。

(二) 原告は、被告の理事会に出席するよう求められたのに対し、会員個々の全人格をもって直接運営にあたるべき被告の基本的性格を無視して、会員でない松本弁護士らに文書で回答させた。

(三) 原告は、無言電話事件、中傷文書配布事件及び未解決のピストル発砲事件の風聞があるから、定款五条一節の全般的資格条件を欠く。

(四) 原告は、就業中の被告の会員に対し、相手の迷惑を省みずに不必要な長電話をしたり、親睦会において自己の便宜のためにバスを配車するよう要求した。原告の右迷惑行為は、定款三条の綱領及び四つのテストに適合しない。

(五) 被告の理事会は、被告の目的、綱領、運営実績に照らして、ある会員とともに被告を運営存続することが社会通念上困難と認める場合には、定款一〇条六節b所定の十分な理由があると判断して、右会員の身分終結を決定できる。なお、右の判断は、過去の一回的事実の評価ではなく、総合的考慮を必要とするから、明確に要件化することはできない。

本件においても、被告の理事会は、被告の綱領、奉仕団体としての基本的性格に照らして、原告の人格を総合的に評価した結果、会員身分を終結する十分な理由があると判断した。そして、これは総合判断であるから、その理由を全て個別具体的に特定することは煩雑かつ困難である。

四  被告の主張に対する原告の認否・反論

1  認否

(一) 被告の主張1は争う。

(二)(1) 同2(一)は争う。

(2)① 同2(二)(2)①の事実のうち、被告が原告に対し三度にわたり文書で被告の理事会に出席するよう求めたことは認め、その余の事実は不知又は否認する。

② 同2(二)(2)②は認める。

③ 同2(二)(2)③の事実のうち、被告が原告に対し平成六年一二月二日付書面によって本件理事会決定を通知したことは認め、その余の事実は知らない。

④ 同2(二)(2)④の事実のうち、原告が被告に対し定款一〇条六節dの規定に基づいて提訴を申し出たことは認め、その余の事実は知らない。

⑤ 同2(二)(2)⑤は認める。

(三) 同3の事実のうち、原告がガバナーに直接抗議したこと、原告が被告の理事会に出席するよう求められたのに対し松本弁護士らに文書で回答させたことは認め、その余の事実は否認し、被告の主張は争う。

2  原告の反論

(一) 法律上の争訟

(1) 裁判所は、団体のなした処分が被処分者の一般市民としての権利・利益を侵害する場合、右処分の当否を審判することができる。

(2) 原告は、本件決定によって、ロータリー・クラブ会員であることから得られる高い社会的地位を喪失し、歯科医院の経営に影響を受けた。さらに、本件決定は、原告の除名を意味し、原告が何らかの反社会的行動に関与したことを想起させるから、本件決定によって、原告の名誉は著しく毀損された。

したがって、本件決定は、原告の一般市民としての権利・利益を侵害する。

(3) よって、裁判所は、本件決定の当否を、定款に照らし、適正な手続に則ってされたか否かを審理できる。

(二) 本件決定の無効

裁判所は、団体のなした処分の当否を、団体が自律的に定めた規範に照らし、右規範を有しない場合は条理に基づいて、適正な手続に則ってされたか否かによって審判すべきであるが、ロータリー・クラブは、宗教団体や政党のように国家制度のあり方等からする高度の自律権保障が必要とされる団体ではないから、適正手続保障は、より高度のものが要求されるというべきである。

(1) 会員身分終結の理由の不存在

会員身分終結の理由について被告の主張は、以下のとおり、いずれも根拠がない。

① 原告は、地区のロータリー・クラブを指揮監督する立場にあるガバナーに対し、被告の運営が定款に則っていないことを問題提起したにすぎないのであるから、そのことは会員身分終結の理由にならない。

② 原告が被告の理事会に出席するよう求められたことに対し松本弁護士らに文書で回答させたことは、会員身分終結の理由にならない。これが会員身分終結理由となるとすると、弁護士制度を否定することになる。

③ 無言電話事件、ピストル発砲事件等においては、原告は被害者であるから、会員身分終結の理由にならない。

④ 原告及びその妻が被告の家族親睦会等に出席して和やかに交際を続けたこと及び被告主張の事実はいずれも過去の事実であることからすれば、被告の主張はいずれも全く根拠のない一部の理事の感情的な見解にすぎない。

(2) 手続の不公正

① 原告は、被告に対し、被告の理事会への出席を求められる都度、文書によって意見等を申し出るよう求めたが、被告は、原告に対し、理由を一切明らかにしないまま、本件決定をした。原告は、本件例会において、口頭で、ガバナーに対し被告の運営について抗議したこと及び弁護士を通じて回答したことが会員身分終結の理由であると告げられたが、それがどうして会員身分終結の理由になるかについての具体的説明はなかったため、結局、会員身分終結の理由を理解できなかった。

原告は、以上のとおり、本件決定の手続において、会員身分終結の理由を知らされず、釈明及び反論ができないまま、会員身分を終結させられた。したがって、本件決定の手続は、被告の理事会の恣意的な会員身分終結決定を防止するために厳格な手続規定を設けて会員の釈明及び反論の機会を保障した定款に反する。

② 本件例会で説明された会員身分終結の理由と被告が本訴において主張する会員身分終結の理由とが一致しない。とすれば、被告は、会員に告知しない理由によって、本件例会決定をしたことになる。

③ 被告は、会員に対し、本件例会の一週間前の例会において、会員身分終結の理由を説明することによって、原告が釈明及び反論できないところで不当な予断を与えたことになる。

④ 被告が会員身分終結の理由として抽象的で具体性を欠く理由しか主張できないのは、被告の多数派が、原告を、正当な理由なく恣意的に排除したからである。

なお、被告は、会員身分終結の理由を個別具体的に特定することは煩雑かつ困難であると主張するが、特定できない理由によって会員身分を終結することは許されない。

(三) 結論

よって、本件決定は、理由のないもので、手続的にも不公正なものであるから、違法かつ無効である。

第三  証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実、同2(一)ないし(三)の事実、同2(四)の事実のうち、本件決定が原告の会員身分を剥奪するものであること、同3(一)の事実のうち、被告が、平成六年一〇月一日、大阪府B市内において、ホストクラブとして本件フォーラムを開催したこと、被告の主張(二)(2)①の事実のうち、被告が原告に対し三度にわたり文書で被告の理事会に出席するよう求めたこと、同2(二)(2)②の事実、同2(二)(2)③の事実のうち、被告が原告に対し平成六年一二月二日付書面によって本件理事会決定を通知したこと、同2(二)(2)④の事実のうち、原告が被告に対し定款一〇条六節dの規定に基づいて提訴を申し出たこと、同2(二)(2)⑤の事実、同3の事実のうち、原告がガバナーに直接抗議したこと、原告が被告の理事会に出席するよう求められたのに対し松本弁護士らに文書で回答させたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二  まず、裁判所が本件決定の効力を審査できるか否かについて検討する。

1  本件決定が原告の会員身分を剥奪するものであることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲七号証及び乙二号証、原本の存在及び成立に争いのない乙八号証の二並びに原告本人尋問の結果によれば、以下の事実が認定できる。

(一)  被告は、大阪府B市を区域限界とする国際ロータリー加盟会員である(定款一条及び二条)。

(二)  ロータリーの綱領は、有益な事業の基礎としての奉仕の理想を鼓吹し、これを育成し、特に次の各項を鼓吹育成することにある(定款三条)。

(1) 奉仕の機会として知り合いを広めること。

(2) 事業及び専門職務の道徳的水準を高めること、あらゆる有用な業務は尊重されるべきであるという認識を深めること及びロータリアン各自が、業務を通じて社会に奉仕するために、その業務を品位あらしめること。

(3) ロータリアンすべてが、その個人生活、事業生活及び社会生活に常に奉仕の理想を適用すること。

(4) 奉仕の理想に結ばれた、事業と専門職務に携わる人の世界的親交によって、国際間の理解と平和を推進すること。

(三)  被告は、正会員、シニア・アクチブ会員、パスト・サービス会員及び名誉会員によって構成される(定款五条二節)。

善良な成人であって、職業上良い世評を受けている者のうち定款所定の要件を満たす者が、会員選挙等の細則所定の手続を経て被告の会員となることができる(定款五条及び細則一一条)。

(四)  被告の役員は、会長、副会長、幹事、副幹事、会計、SAA、副SAA及び会長エレクトである(定款八条三節参照)。役員は、年次総会での選挙によって選出される(定款八条四節及び細則一条)。

(五)  会長、副会長及び会長エレクトは、全員、理事となり、その年次総会での選挙によって選ばれた他の理事とともに理事会を構成する(定款八条三節)。理事会は、被告の唯一の管理主体として、定款に例外として規定されている場合以外のあらゆる事項について決定する(同条二節)。被告に対し提訴し、定足数を満たした例会において、出席会員の三分の二の投票を得る以外には、右決定は覆すことはできない(同節)。理事会は、全役員及び全委員会に対し包括的支配力を持ち、正当な理由があれば、いずれをも罷免できる(同節)。

(六)  被告は、クラブ奉仕委員会、職業奉仕委員会、社会奉仕委員会及び国際奉仕委員会を設置する(細則七条)。右各委員会の活動内容は、以下のとおりである。

(1) クラブ奉仕委員会は、被告の会員がクラブ奉仕に関する事柄においてその諸責務を遂行する上に役立つ指導と援助を与えるような方策を考案しこれを実施する。

(2) 職業奉仕委員会は、被告の会員がその職業関係においてその諸責務を遂行し、各会員それぞれの職業における慣行の一般水準を引き上げるうえに役立つ指導と援助を与えるような方策を考案しこれを実施する。

(3) 社会奉仕委員会は、被告の会員が地域社会に対する諸責務を遂行するうえに役立つ指導と援助を与えるような方策を考案しこれを実施する。

(4) 国際奉仕委員会は、被告の会員が国際奉仕に関する事柄においてその諸責務を遂行するうえに役立つ指導と援助を与えるような方策を考案しこれを実施する。

(七)  原告は、純粋に奉仕活動に参加する目的で被告に入会したのであり、被告の会員であることによって何らかの利益を享受したことはない(原告本人)。

2(一)  右認定事実によれば、被告は、奉仕の理想を鼓吹するために、クラブ奉仕、職業奉仕、社会奉仕及び国際奉仕等の活動を行う私的な任意団体である。

したがって、被告の会員であるという地位は、被告の右活動に参加することができることを意味するのみであり、それ以上に会員に何らかの権利又は法的利益をもたらすものではないし、原告も、純粋に奉仕活動に参加する目的で被告に入会したのであり、被告の会員であることによって何らかの利益を享受したことはないのであるから、被告の団体内の地位であって、法律上の地位ではないし、本件決定は被告の団体内の地位を剥奪し、右活動への参加資格を喪失させるものである。とすれば、本件決定は、一般市民法秩序と直接の関係を有しない被告団体の内部的な地位に関する不利益を与えるものにとどまり、被告の会員であるという地位や当該決定の効力に関する紛争をもって具体的な権利又は法律関係に関する紛争ということはできないから、裁判所に対し、右決定の効力や右地位の有無の確認を求めることはできないと解される。

(二)  なお、原告は、本件決定によって、被告の会員であることに伴う高い社会的地位を剥奪され、名誉を侵害されたから、本件決定が一般市民法秩序に直接の関係を有すると主張する。しかし、本件決定の結果として原告が経済的及び市民的生活に関する不利益を受け、これが具体的な権利又は法律関係に関する紛争に該当することがあるとしても、そのときには当該不利益に関して司法救済を求めるべきものであるから、そのことを理由として本件決定の効力に関する紛争を具体的な権利又は法律関係に関する紛争ということはできない。

3  したがって、本件決定無効確認の訴え及び会員身分確認の訴えは、不適法であり、却下を免れない。

三  次に、原告のその余の請求について検討する。

1  本件フォーラムについての慰謝料請求

(一)  被告が、平成六年一〇月一日、ホストクラブとして、本件フォーラムを開催したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲二九号証及び原告本人尋問の結果によれば、被告が原告をフォーラム委員会の構成員とせず、本件フォーラムの際に配布したプログラムにも原告の名前を、参加クラブ登録者名簿には記載したが、フォーラム委員会の構成員として記載しなかったことが認められる。

(二)  しかし、原告を、フォーラム委員会の構成員とせず、その氏名を、本件フォーラムのプログラムにフォーラム委員会の構成員として記載しなかったことは、被告の内部組織の構成員に原告を加えず、したがって、その氏名を構成員として記載しなかったことにとどまる内部問題にすぎないし、そのような単なる不記載によって原告の社会的評価が低下したとも考えられない(なお、原告の氏名が参加クラブ登録者名簿には記載されている以上、そのプログラムの配布が、原告の会員資格喪失の公表とならないことも明らかである。)。

したがって、その余の点を検討するまでもなく、原告のこの点についての請求は失当である。

2  会員身分終結についての名誉毀損の成否

(一) 名誉毀損による不法行為責任の成否は、一般市民法秩序と直接関係するので、裁判所は、本件決定の当否を審判することができる。

しかしながら、被告は全く私的な任意団体であるから、このような団体の組織運営は自主的かつ自律的になされるべきであるが、裁判所の審判権がこのような団体の処分に無制約に及ぶとすると、裁判所が団体の自律的決定に公権的介入をすることになり、団体の結社の自由を侵害するおそれがある。したがって、右処分が一般市民法秩序と直接の関係を有する場合であっても、団体の自律的運営権を尊重するため、当該処分の当否は、当該団体が自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り、右規範に照らし、適正な手続に則ってされたか否かによって決すべきであり、その審理も右の点に限られるものと解される。

(二)  前記一の争いのない事実、前掲甲七号証、成立に争いのない甲三号証、甲四号証、甲一四号証の一、甲一五号証の一及び二、証人Dの証言並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認定できる。

(1) 定款には、資格条件を備えた会員の身分終結について、以下の規定がある(甲七号証)。

① 会員は、資格条件を備えていても、理事会が十分と認める理由があれば、特にその目的のために招集された理事会の会合において、理事会全員の三分の二を下らない賛成投票によって、その会員身分を終結せしめることができる(一〇条六節b)。

② ①の場合、当該会員は、かかる懸案案件について、少なくとも一〇日間の予告を書面によって与えられて、理事会に対し書面による答弁を提出する機会を与えられなければならない。また、理事会に出頭して自分の立場を釈明する権利を持つものとする。かかる予告の通達は、対人配達郵便または書留郵便によって、分かっている最新の宛先に送付されなければならない(一〇条六節c)。

③ 会員身分を終結させる決定が行われた場合、幹事は、理事会決定後七日以内に、その理事会の決定を、書面をもって、当該会員に通告しなければならない。当該会員はかかる通告の日付後、四日以内に、幹事に対する書面をもって、被告に提訴するか、定款一四条に定める仲裁に訴えるか、いずれかの意思のあることを通告することができる。提訴する場合は、提訴を通告する書面を受理してから二一日以内に行われるべき被告の例会において、当該提訴の聴聞を行うために、理事会はその日取りを決定しなければならない。このような被告の例会およびその例会で行う特別案件について、少なくとも五日間の予告が、書面をもって、被告の会員全員宛に与えられなければならない。そして、このような提訴が審議される例会には、被告の会員のみが出席を許される(一〇条六節d)。

④ 提訴の場合、提訴の対象となった決定は、理事会が指定した例会において、定足数の出席を得て、その出席会員の三分の二の投票によってのみ覆すことができる(八条二節)。

⑤ 提訴された場合、被告の右④の決定が最終決定となる(一〇条六節e)。

(2) 被告役員であったEは、原告に対し、平成六年四月八日ころ、電話で、原告のとった行動について責任を取らなければならないが、具体的内容は秘密であるから説明できないと述べた(原告本人)。

(3) 被告の理事会は、平成六年四月七日、原告の身分終結手続に着手するに先立って、まず、原告に自主的退会を促すこととし、原告に対し、平成六年四月二一日付、同年六月一七日付及び同年八月二六日付文書によって、原告の会員身分に関する話をするために被告の理事会に出席するよう求めた(D証言及び争いのない事実)。これに対し、松本弁護士らは、被告に対し、原告の会員資格条件に変動がないから、原告は被告の理事会に出席するつもりはない旨回答し、被告に意見等があれば文書で申し出るよう求めたが、被告が、原告に対し、意見等を文書で申し出ることはなかった(争いのない事実及びD証言)。

(4) 松本弁護士らは、被告に対し、平成六年九月一九日付質問状を送付したが、被告は、これに対し回答しなかった(甲一四号証の一及びD証言)。

(5) 被告は、原告が被告の理事会に出席していれば、原告に対し、その身分の終結について説明する予定であったし、松本弁護士らから回答がなされた後も、原告に対し、被告の理事会への出席を繰り返し求め、原告本人に説明する機会を持とうと試みた(D証言)。

(6) 被告は、原告に対し、平成六年一一月一七日付書面によって、定款一〇条六節b、cの規定に基づいて、その会員身分を終結させる予定である旨通知したが、原告は、被告に対し、同年一二月二日付質問状(同月五日到達)によって、文書による回答を求めたが、それ以外には、何らの応答もしなかった(甲一五号証の一及び二並びに弁論の全趣旨)。

(7) 被告は、平成六年一二月一日、定款一〇条六節b、cの規定に基づいて、特別理事会において、本件理事会決定をし、原告に対し、書留郵便によって、右決定を通知する同月二日付書面を送付した(D証言及び争いのない事実)。

(8) 被告は、原告に対し、本件理事会決定の通告を受けてから一四日以内に提訴するか仲裁に訴えることができる旨を記載した平成六年一二月一〇日付通告書を送付した(甲三号証)。

(9) 原告は、被告に対し、定款一〇条六節dの規定に基づいて、提訴を申し出たので、被告は、会員全員に対し、平成六年一二月一五日付書面によって、右提訴を聴聞し、特別案件を審議するため、本件例会を同月二二日に開催することを決定した旨通知した(甲四号証及び弁論の全趣旨)。

(10) 原告は、被告理事のD及び守口ロータリー・クラブ会長のFと、平成六年一二月二二日の午前一一時から、守口プリンスホテルにおいて会見し、Dから、身分終結決定の理由として、外部者であるガバナーに対しBロータリー・クラブの運営について抗議をしたことが定款違反であるとの説明を受け、自主的に身分を終結する方法を選択するよう勧められたが、自主的に身分を終結するつもりはないと断った(原告本人及びD証言)。

(11) 被告は、平成六年一二月二二日、本件例会を開催し、原告出席の上、原告の会員身分終結について聴聞及び審議を行った(争いのない事実)。二一名の出席会員の投票による採決の結果、二〇名の会員が本件理事会決定を支持し、一名の会員が支持しなかった(争いのない事実)。

(三)(1) 右認定事実によれば、本件決定についての手続は、定款所定の手続に則っているといえる。他方、右定款が公序良俗に反することについては、主張立証がない。したがって、本件決定は適法であるといわなければならない。

(2) これに対し、原告は、被告から会員身分終結決定の理由を一切告知されなかったのであるから、本件決定の手続は、原告の釈明権及び反論権の保障を欠く違法なものであると主張する。

確かに、被告は、松本弁護士らによる理事会に出席するつもりはない旨の回答文書及び文書回答を求める旨の質問状に対し一切回答せず、Dが、原告に対し、本件例会の直前になって初めて会員身分終結の理由を告げたにとどまるから、いささか不親切な対応であったことは否めない。

しかし、定款上は、「少なくとも一〇日間の予告」(一〇条六節c)又は「少なくとも五日間の予告」(同d)をもった書面によって案件が示されるべきことが規定されているにとどまり、会員身分の終結の理由を積極的かつ書面によって告知するよう求める規定がないこと、したがって、文書での回答を求める松本弁護士らの質問状に応答することは、定款上の要請とはいえないこと、原告は、平成六年一一月一七日付書面によって、理事会が会員身分を終結させる旨通知し、会員身分を強制的に終結させる手続を開始した後、本件理事会決定がなされるまでの間、被告に対し、何らの問い合わせもしなかったこと、Dは、本件例会決定前に、原告に会って、説明を行っていること等からすれば、その手続について定款違反があったとまではいえない。

(3) 原告は、本件例会において示された会員身分終結の理由と本件訴訟において被告が主張する本件会員身分終結の理由が一致せず、本件決定は無効であると主張するが、会員に告知しない理由によって本件決定がなされたと認めるに足りる証拠はない。

(4) 原告は、被告が、本件例会に先立つ例会において、会員に対し、身分終結の理由を告げて不当な予断を与えたと主張するが、事前に会員身分終結の理由を告げたことが不当な予断を与えたことになると認めるに足りる証拠はない。

(5) 原告は、会員身分終結の理由が明確でないと主張するが、定款上、被告の理事会は、会員としての資格条件を備えていたとしても、理事会が十分と認める理由があれば会員身分の終結を決定できるとされていること、原告がガバナーに直接抗議した事実等の一定の具体的事実は示されていることからして、被告に裁量の逸脱があったとはいえない。

(四)  さらに、原告が本件決定によって具体的にどのような不利益を被ったかについての立証はない。この点、原告は、本件決定後、しばらく歯科医院の患者数が減少したと供述するが、患者数の減少の事実及び本件決定との因果関係のいずれについても、これを認めるに足りる証拠はない。したがって、この点からしても原告の主張は理由がない。

四  以上から、原告の本訴請求のうち、本件決定無効確認の訴え及び会員身分確認の訴えについては不適法であるからこれを却下し、その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官見満正治 裁判官松井英隆 裁判官西岡繁靖)

別紙目録<省略>

別紙謝罪文<省略>

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